むしろ、役に立つ偽善を

  • 2010.02.16 Tuesday
  • 23:44
み旨の天に行わるる如く地にも行われんことを



かなり以前、インドにおける生前のマザーテレザのテレビドキュメンタリーがあった。
ある若者が、修道会「神の愛の宣教者会」に対して協力を申し出たい、仲間たちにマザーテレサの活動について説明し、みんなが手伝いに集まれるようにしたいと言ったのに対して、



「そんなことより、お金を集めてください」



と叱責した。

これだけを書いてしまうと、呆気にとられるかもしれない。
聖女であるマザーテレサがなんでそのような俗っぽいお願いをするのかと。
だが、そのドキュメンタリーの前後を観ると、この言葉に深い意味があるのを知る事ができる。

「もっとも貧しい人のために働くように」との天命を聞き、インド・コルカタで死に行く人たちへの平安のために修道会を開いた彼女の元に、ぞろぞろと賛同者が来たわけではなかった。
ヒンドゥー教が深く根付き、キリスト教に対してある種の抵抗感を抱いていたインド人にとって、不信の目が向けられたのは当然であったが、それ以上に、「もっとも貧しい人のために働くように」という命令が、現実としてあまりにも厳しいものであった。
特有の風土病に犯され、膿と垢の中で打ち捨てられた人を、死の直前まで看取ることは、体力的にも精神的にも過酷なものであった。
軽い気持ちでボランティアに来る旅行者もいたが、その厳しい現実に直面しただけで、気分を悪くし、中には倒れる者まで出てきた。
厳しい言い方をすれば、自己満足に拘泥しているに過ぎない、見当違いの「助け」だ。

修道会にとって必要なのは、真剣に「もっとも貧しい人のために」に無私で働く労働力であり、それができなければ、現実的な方法での助けであった。つまり物的な援助である。
食料、衣料、医薬品。
だが、食料はインドの風土では長持ちしない。
衣料にしても、傷みが酷くなり、管理しきれない。
医薬品もまた、保管が難しい。
であれば、いつでも必要に応じて、直ぐに買うことのできるお金が、現実的な、修道会にとって労働力と同じくらい大切な助けであるのだ。

協力を約束しようとしたその青年に対して、マザーテレサが欲したのは、生半可な同情による、修道会のPRではなかった。
極めて現実的な、助けであった。
実際、映像でみたその青年は、人こそよさそうであったが、とてもあの環境で長続きできるタイプではなさそうだったし、また、彼の友人知人についても、同じくらい、労働力として期待できそうにもなかった。
マザーテレサがそれを見抜いたかどうかは分からない。
ただ、経験から、その青年に対して、もっと現実的になれ。現実的な助けをよこして欲しい。現実的な方法で、

「み旨の天に行わるる如く地にも行われんことを」

望んだのである。



ハイチ千羽鶴騒動、ネットの批判に「何もしない人間が叩くな」「やらない善よりやる偽善」と反論の声も

以前、この記事を読んだ時、このことを思い出した。

「やらない善よりやる偽善」

随分おかしな理屈だ。
キリスト教における「愛」の正反対の言葉は「憎しみ」ではなく、「無関心」である。
「やらない善」という言葉は矛盾している。
そして何よりも「やる偽善」というのも、この千羽鶴を折って送るという行動において、「善」でも「偽善」でもない、前述のマザーテレサが叱った青年と同じである。
「助ける」つもりが、汚臭で倒れたボランティア。
時間も金も無駄にして、意味を成さない千羽鶴。
どちらにおいても見えるのは、見当違いの自己満足。
むしろ1時間でもアルバイトをして、そのバイト代を寄付することのほうが、その思い付きが「善」「偽善」であるかはともかく、本当の意味での「助け」になる。



まあ、もっとも、ドラえもん基金や日本ユニセフ、ホワイトバンドには寄付するなよ。
ハイチに送られるはずの寄付金が、それこそ「善」でも「偽善」でもない、自己満足の「泥棒」の懐に入っちゃうんだからね。
それならいっそのこと、「ウィーアーザワールド 2010ハイチ」を、iTunesからダウンロードしたほうがマシだというもんだ。w



それにしても…

み旨の天に行わるる如く地にも行われんことを

そうなんだよな…。
祈れば天から何かが降ってくるという意味ではないんだよな、この祈り。


そういえばマザーテレサの言葉に

「身近な人間に気を向けることが出来なければ、遠くの人に愛を持って接することは出来ない。身近な人間に優しく出来ないのであれば、遠くの人間にも優しく出来ない。」

というのがある。
これも、この青年に対してだけではなく、「善」「偽善」以前に、まず現実において、自分ができることは何か、自分ができる「助け」とは何か、我々に対して、それを見極めよという、叱りが聞こえてくる。
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